病気と治療:褥瘡

この記事を編集した医師 : 保坂宗孝 |  最新アップデート 2022年12月29日

褥瘡とは?
一種のキズですが、特徴的な成り立ちを持ちます。
特殊な成り立ちとは?
荷重圧(体重による)、接触圧、引っ張り応力などの外力が、組織(表皮、真皮、皮下組織など)の血流を低下または停止させ、組織を障害し、褥瘡を作り上げます。
分かりやすくビデオにまとめました→Link1 : Video褥瘡シリーズ 褥瘡の成り立ち
普通のキズとは違う!
褥瘡の出来やすい方は、痛みを感じない方(脊髄損傷、糖尿病)、身体を動かせない方(身体的拘束、過鎮静、脳梗塞、脊髄損傷、ギブスでの固定)、高齢な方々です。褥瘡というキズは、ケガとは違い、深部の血流障害が大きく関与しているため、正しく評価し、多面的に治療していく必要があります。
診断は?
多くの場合は経過や皮膚の所見で診断が可能です。
褥瘡の重症度の判定には日本褥瘡学会が開発した褥瘡の評価ツールのDESIGN-R®が用いられます。これは、褥瘡が改善しているのか、悪化しているのかわかるように点数化したものです(リンク2参照)。
Link 2 : DESIGN-R® 日本褥瘡学会
基礎疾患も併せて考える
糖尿病を患っているケースでは、高血糖は知覚障害や血栓形成を促進させてしまうため、血糖値の管理が大切です。脊髄損傷・脳梗塞のケースでは、拘縮が進んでしまうため、ADLを悪化させないためのリハビリがとても大切です。身体的拘束では、同様に拘縮が進んでしまうため、精神状態が落ち着いている際は、拘束帯を外して様子見することが大切です。ギブス固定されているケースでは、仕方ないのですが、装具の見直しが必要となります。過鎮静では、薬物調整を行い、鎮静を取ることが大切です。特に高齢者では、未治療の疾患が隠れていることもあるため、きちんと診断し、治療介入することが大切です。
栄養管理は大切
多くの患者で認められるのが低栄養です。このため、キズが治るためには、栄養の改善が大切です。食べられない患者では、中心静脈や胃瘻も検討します。実際、栄養が改善すると共にキズも良くなるケースが多いです。
Link 3:褥瘡の栄養管理 日本褥瘡学会
褥瘡の治癒過程とは?
治癒過程は、黒色期▶︎黄色期▶︎赤色期▶︎白色期の順で推移します。黒色期は、黒く変色した壊死組織が残存している時期。黄色期は、黒色した壊死組織は除去されたものの、壊死した脂肪組織が露出している時期。赤色期は、肉芽組織(血流に富む組織)が増成する時期。白色期は、肉芽組織は盛り上がり、周囲皮膚からの上皮化が進行する時期。
デブリードマンや洗浄は基本
どの治癒過程でも、抵抗力の無い創面では、壊死や感染を生じ得ます。常に創面を観察し、生じた壊死組織、バイオフィルム、貯留した膿は最大限デブリードマンすることが大切です。また、石鹸洗浄することも大事です。ポケット形成しており壊死切除が難しい場合には、イソジンを浸したガーゼを創内に充填する処置が効果的です。キズを綺麗に保つと、治癒を促進させることができます。
Link 4: video 褥瘡シリーズ 創部に軟膏を塗る前に
MRSAと緑膿菌
これら2つの細菌は別格で扱われます。何故でしょうか?それは、①感染すると創傷治癒を極度に遅らせるため、②低免疫状態の患者が感染すると全身感染症(敗血症・肺炎など)を起こしてしまうためです。私たちはどのように対処したらよいのでしょうか?ビデオにまとめてみました。
Link 5 : video褥瘡シリーズ  MRSAとキズ
キズの状態により治療の選択を変える
軟膏や創傷被覆剤は数多く発売されています。
キズの状態をよく観察し、適宜変更していく必要性があります。壊死がありジュクジュクしている場合、ヨウ素含有製剤。壊死はあるけど滲出液が少ない場合、スルファジアジン銀クリーム。壊死ないが感染疑われる場合、抗生剤入り軟膏。壊死・感染ない場合、ワセリンや創傷被覆剤。こんなイメージを基に選択しています。
Link 6 : video褥瘡シリーズ 症例で考える薬剤選択
Link 7 : 褥瘡の治療について 日本褥瘡学会
Q/A

Q1 : 褥瘡の予防… 素人レベルでは、どうすれば良いのか?

A1 : 

褥瘡予防を考えるということは、脳や心臓といった重要臓器がダメージを受けた結果でしょう。しかも、”自力でカラダを動かそう” という意欲が落ちているケースが大半。自力で無理な場合には、他力が頼りになってきて、リハビリの重要性に繋がります。とはいえ、リハビリ専門のスタッフは少ないため、周囲サポーターと共に考えていくことが大切なのです。例えば、 “支えて立つことができる” を目標に、1日2-3回程度のリハビリを入れていくと、ベスト。もちろん、寝ている間は、1カ所に圧がかかり過ぎないようにクッションを入れることが大切です。褥瘡の好発部位を参照にすると、”どこに注意するべきか” が分かるでしょう。カラダ全体を、毎日よく観察することは言うまでもないです。


Q2 : 褥瘡の早期発見、どうしたらよいですか?

A2 : 褥瘡を早期発見するためには、その人の特徴を捉えることが大切だと思います。

左右どちらを向くクセなあるのか、鼻が突出している部位があるのか、体重はどのくらいあるのか、栄養状態はどうか、皮膚の状態はどうか、などなど。

脳疾患or神経疾患がベースにあれば、麻痺により、左右差が出ていると思います。

麻痺への理解は、とーっても重要となります。

褥瘡ができるとすれば、まずはココだろうな” という視点を持って、全身をチェックすることがベストでしょう。


Q3褥瘡には、消毒は必要??

A3 : “感染予防に消毒は必須。ましてや汚らしい褥瘡には消毒は外せない…” という考えは正しいのでしょうか?

僕は、経験上No だと思っています。褥瘡をキレイに保つポイントは、何と言っても “ 泡洗浄と適度なデブリ” です。消毒を頑張っても、コストが無駄になるだけで無く、正常組織を痛めてしまうことがあります。泡洗浄を頑張って、付着して取れない汚い組織は、医師が除去する(デブリすることがベストです。